俺達はついにたどり着いた。
チャルメラの向こう側へ。
確かにすぐそこに在るのだが、実体を掴むことができない存在。
まるでゴースト、蜃気楼。
どうしても知りたい。その味を。
伊達に引っ越してからもうすぐ1年経とうとしているが、やってみたいこと・確かめたいもことの一つに、チャルメラの謎がある。
ちなみに、一つは、公園のリス。
登校中の子供は何度も見ているが、お父さんは見たことなかった。
これは最近の朝のウォーキングで今のところ確率10割で見られるようになった。
これは確認済み。
次はチャルメラの謎だ。
春。
チャルメラの音が聞こえることがある。
夏。
どうやら金曜の夜に聞こえる。
秋。
だいたい20時くらいだろうか。
冬。
家の前を通ったのを見たぞ。
一瞬しか見えなかったが、トラックだ。
赤い提灯がついていた。
気になる。
気になって気になって、夜しか眠れない日々が続く。
これまでに分かった情報と課題を整理するため、家内会議を開催。
・金曜の夜、20時過ぎにだけ現れるようだ
・形態はトラックで、荷台が屋台になっていると思われる
・荷台に上がって食べるのか、テイクアウト方式なのか
・どうやってトラックをつかまえるのか
・もしかして電話で誰かが毎週金曜に出前しているのか、曜日ごとに街から街へ流しているのか
・20時過ぎに夕飯としてラーメンを食べる事について、肉体的に、精神的に耐えられるか
1番の課題は、食べたいが、時間帯が遅いことだ。
通常、夕飯は18時から19時。
当然、20時過ぎまでは待ってられない。
さらに、食べられたとしてもすぐに子供の寝る時間が迫る。
きっと眠い。
幸いなことに、集会は金曜の夜なので、次の日は学校休み。
寝る時間は少し遅くなるが、眠さには少し耐えてもらおう。
18時頃に軽く何かを食べておくことで、空腹にも耐えられるだろう。
妻には早めにおかずを仕込んでもらう。
もしも、チャルメラに巡り逢えなかった場合は、悔し涙のしょっぱいインスタントラーメンで再戦を誓おう。
よし、決戦は金曜日。
俺達はついにチャルメラの謎に迫る覚悟を決めた。
問題発生。
子供が学校から帰ってきて、17時まで外で雪合戦やら走り回ってクタクタで帰ってきた。
相当楽しかったようで、嬉しい限りだ。
しかし
マズいぞ。
冷えたからだを温めるため、帰宅後は風呂へ直行。
マズいぞ。
来るぞ。
「腹減ったぁ~!」
すかさず妻が呪文を唱える
「ホイコーロー」
会心の一撃。
飯が止まらない。
良いだろう、食べたい時に食べるといい。
次にお前は「あ~眠い」と言う。
「満腹~、あ~眠い」
だがミッションは続行だ。
20時。
テレビも付けず、ひっそりと獲物を待つハンターのように耳を澄ませる。
チャルメラは聞こえない。
堪らず外に出て巡回するも手がかりなし。
寒いが窓を少し開けて、遠くの音もキャッチするとしよう。
20:15
微かにチャルメラの音が聞こえる。
外に出るが見当たらない。
そのうち、音が途切れた。
え?終わり?
いや、誰かが注文したに違いない。
少し待てば・・。
20:30
聞こえる!外に出る。
近い。さっきより近い。
隣の通りまで行くと、トラックが!
スマホのライトを点けて、手を振ってみる。
パッシング!・・応えた!
やった!
ついに、家の前にあのトラックが。
めん道楽 って言うんだ。
おじさんが降りてきて、荷台に上がる。
「入んなさい」
子供を呼んで、お邪魔します。
(撮影許可をいただきました)
うわぁこんな風になってんだ。
店だね。
メニューは、カレーラーメン800円とラーメン味噌 塩 醤油 各700円のみ。
カレーラーメンと味噌、塩を注文。
「えっと初めてなんですがシステムが分からなくて・・」
「ああ、発泡のどんぶりに入れるから、持って帰って家で食べてもいいし、ここで食べてもいいし」
持って帰る事に。
出来上がる間、少しお話を。
脱サラしてこの移動販売だけで35年続けていらっしゃるそうで、登別から来ているとのこと。
昔は奥さんと2人で遠くは長万部、八雲、岩内まで行っていたとか。
お休みは基本的に無し、サラリーマンの方がよっぽどいいよ、と誇らしげに笑っていたのが印象的。
伊達には金曜の夜に毎週来ているそうで、良かったら次から電話くれたらここに来られるよとのことで、番号を教えて貰った。
「転勤族かい?どこから来たの。伊達は住んでみてどうだい?」
何故転勤族とわかる。
長くこういう仕事してると分かるのかな。
次に食べたい時は、電話することができる。
さぁ出来上がってきたぞ。
代金を支払い、お家でいただきます。
いゃぁ圧巻。
チャーシューめちゃでかい。
20:33。罪悪感高め。
味噌ラーメン
塩ラーメン
いよいよ、いただきます。
太めの麺は、つるつる食感。
長さが短めなのが特徴。
カレーはあっさり目だがスパイス利いている。うまし。
味噌もあっさり目だ。一味がパンチある。
うまし。
塩、一瞬醤油に見えるが、しお。
止まらないうまさ。
なんと言っても、チャーシューが絶品。
大満足、超満腹。
果たして寝られるのか。
今度食べる時は、電話で予約してもう少し早めに食べられると良いのだが。
こうして、チャルメラの謎が解けたとともに、この町の楽しみがひとつ増えた。
次は何かな。
そういや噴火湾の恵みをまだ味わっていないな。
それはまた改めて記すとしよう。